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2025年5月12日月曜日

鍋石(静岡県浜松市)

静岡県浜松市天竜区春野町川上

この鍋石で最後に雨乞いが行われたのは昭和一八年ごろだったという。続く旱天に畑や焼畑の作物はすべてうなだれ、猫の額ほどの山田の稲も萎えてしまう。何日も何日も雨が降らない――こんな時、川上の人々は相談して、こぞって鍋石へむかう。そして、石の上へのぼり、塩を撒き、全員で般若心経を唱えるのだった。そして、鍋と呼ばれる穴の水で男達は褌を洗う。洗い終えてから鍋の水を全部汲み出すのである。鍋の水で褌を洗うというのは水神の座である鍋石の聖水で不浄の物を洗うことによって水神を怒らせ、水神が、不浄を清めるために雨を降らせることを期待しての行為である。いわば、「聖水汚染型」の雨乞い呪術なのである。
野本寛一『石と日本人』樹石社 1982年

同書にのみ登場する岩石祭祀事例で、他の文献では見かけない場所である。この鍋石の所在を特定することにした。

野本氏の記述によれば、春野町の川上のはずれに外山(はずれやま)という小字があり、そこに流れる杉川沿いを1kmほど歩くと断崖下の川の中に鍋石があるとのことである。
石の上には鍋状の穴があり、常に水がたまっていて百人は座れる規模とも書かれている。

他のヒントとして、鍋石で雨乞いをしても雨が降らない場合は、鍋石からさらに2km進んだ「玄馬の滝」でも雨乞いしたといい、このあたりの情報を綜合すればおおよその位置が絞られる。

杉川沿いには現在、杉川林道が通っていて、ずっと北上すると「玄馬沢」と呼ばれる谷間と分岐する。この沢にぶつかるまでの杉川沿いにあるのだろう。


春野町には浜松市春野歴史民俗資料館があるので、地元の民俗について情報をお持ちかもしれないと考えて訪れた。

館員の方々は異動などもあり現在は地元在住の方がいなかったが、ゼンリン住宅地図で探していただいた。
地図には杉川林道がぎりぎり端に掲載されており、そこに「外山沢橋」の名を見つけた。そのあたりを外山と呼ぶらしく、ここから玄馬沢の間に穴に水が溜まった岩石を認められれば良い。


杉川林道の起点(川上地区の宝珠寺あたり)からしばらくは、杉川には氾濫対策のための護岸工事やテトラポットなどが並べられており、鍋石に影響が及んでいないか不安視された。

杉川林道始点

舗装された杉川

それでも林道起点から約25分歩いた、川が大きく蛇行した湾曲部の西岸に、下写真の場所があった。
(35°03'20.83N, 138°01'39.60E)

杉川林道上より、南から撮影

拡大写真

北側から撮影

これまでに見た川辺の岩のいずれよりも大規模で、重要なこととして水のたまった穴(窪み)が岩上に確認できる。

上から撮影。水の溜まった窪みが見える。

拡大写真(写真中央)

野本氏が記したように百人座れる規模であり、外山より北、玄馬沢より南という位置も踏まえて、この岩石が鍋石ではないかと推定される。現在も変わらず存在が確認できたことは大きい。


探訪時は知らなかったが、帰宅後に調べてみると「林道のその先に」のページ内に「〇石橋」と冠された橋があることも知った。

作者の方は銘板が達筆すぎて読めないと判断保留されているが、「昭和四十二年十二月竣功」「鍋石橋」と思われる。
この鍋石橋が杉川林道のどの地点か確認できなかったのは心残りだが、それまで通った4つの橋(柳沢橋・水車沢橋・外山沢橋・小垣沢橋)には該当しなかった。おそらく上記の鍋石の地点を越えた先の次の橋と考えられる。


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