インタビュー掲載(2024.2.7)

2023年3月9日木曜日

倉石忠彦「道祖神伝承における自然石道祖神」(2023年)書評


倉石忠彦氏の論文「道祖神伝承における自然石道祖神」(『信濃』第75巻第1巻、2023年)は、道祖神の素材として用いられる岩石のうち、自然石のままでまつられた道祖神に着目して書かれた論考である。

挑戦的な研究・提言にあふれており、大きく4つに分けて紹介したい。


地質環境と照らし合わせた取り組み


長野県を例にして、本考では地質環境と自然石道祖神に相関関係があることを論ずる。

よく知られるとおり、長野県は南北に中央構造線が走り、松本盆地から静岡にかけて糸魚川・静岡構造線が走る地質環境にある。

倉石氏は、この地質図に自然石道祖神の分布と、その対比として道祖神碑石(人工的に整形された道祖神)の分布の種類の分布図を作成した。

その結果、道祖神碑石はフォッサマグナ内外に分布しており地質との関係は明確でないのに対し、自然石道祖神は大きく千曲川流域、犀川中~下流域、天竜川上流~三峰川流域の3か所に分布が色濃いことがわかった。

そして、前2者はフォッサマグナ内の堆積岩・火山岩を主たる地質で共通し、最後者は一部異なる地質をみせるもののフォッサマグナの西側に分布するという特徴をもち、その意味が何を示すかは不明ながらも「地質環境が自然石道祖神に何らかの影響を与えているだろうことは推測される」と評価した。


一つ一つの自然石道祖神の岩石の種類が同定されている段階ではないということで、倉石氏はこれ以上の言及を避けるが、道祖神以外の自然石信仰を分布に落としたならどのように展開が運ぶか興味深いところである。

私も常々、岩石を取り上げる一人として地質や岩石鉱物との比較分析を試みたいと考えているが、難作業でありなかなか手が付けられていない。

地質環境が伝承文化にも影響していることに着目する研究は、近年、地質学者からも挙がっている。日本列島が変動帯のなかにあるということをもって、変動帯から起因するさまざまな地質的特徴が日本文化の独自性に影響を及ぼしたとの仮説をもつ方もいる。

このように、民俗信仰を人文学の文脈のみで語らず、「岩石」という自然環境との関係で位置づけようとした点が挑戦的である。


道祖神の認識過程 ~自然風景が神になるまで~


本考には「道祖神の認識過程」としてまとめられた図が掲載されている。

これが、道祖神にかぎらず、世界をどのように認識して神を知覚するかという流れも論ずることができそうな、大変普遍的なものとなっている。

  1. まず、非文化としての無秩序・混沌な「バ(場)」「シゼン」があり、
  2. その「バ」「シゼン」の中で、人が体系化した「文化」の中で「自然」を認識して、
  3. 文化の中で位置づけられた自然は「風景」となり、
  4. その風景の中に、石が認識され、
  5. 伝承文化の影響下で、石が「碑石道祖神」「自然石道祖神」として知覚される。


ある人が見れば単なる自然石でも、ある人にとってはその石は神なのだとする、この同一物に対する二つの反応の違いを、背景となる「文化」の違いから切り分ける考え方と言える。


「自然」の中に「石」を見出し、それが伝承者の伝承の世界観のなかで位置づけられ、その一つが道祖神となるというくだりは、言語化されていなかった認識の機微をさらに丹念に選り分けてみていけそうだと感じた。


自然という風景の中で、しばしば石が目に止まる時がある。

これは私の考えだが、この「目に止まる」という反応は、一種の「異物感」があるということなのだと今は理解している。

異物感に対する不安定な感情が、その人自身の思想背景の中で理屈(安定)を求めることで、異物感への一種の解消をおこなった結果が道祖神であり、また、ほかの何かの機能・性格に分かれるのではないか。

倉石氏は、不変でありながら成長するという相反した石の感情があると例示しているが、こういった相反した不安定さも、石への異物感につながるのかもしれない。


また、神の気配を認めるための形状は人によって広がりがあり、だから依代は一定の形状や岩石のみを持つわけではなく、それが現状の自然石信仰のバリエーションにつながっているという指摘にも同意したい。


自然石道祖神の形態分類


本考では、自然石を形態から分類しようとする挑戦的な案が提示されている。


私の場合は、これまで機能の分類で岩石信仰を整理してきた。

その理由は、自然石は自然物なのだから、それらは意図しない造形をしており、その不整形、多面的な形状を分類することの至難さもあるし、人としての意図がないものを分類することの無意味さを感じることによるものだった。


しかし「道祖神」として知覚された自然石の一群を分類することは、人が自然風景の何に(道祖)神を見出したのかという点で、価値あるものと思う。

倉石氏は、長野県内の自然石道祖神の事例を集成したことで、自然石道祖神をA・B・C・Dの4つの大きさ、E・Fの2つの形状、G・Hの祭祀形態に分類した。


法量による分類

  • A 小型自然石 … 20㎝未満
  • B 中型自然石 … 20㎝以上~200㎝未満
  • C 大型自然石 … 200㎝以上
  • D 巨石


形状的分類

  • E 自然石
    ①定型 … a.球形 b.性器形態石 c.仏塔残欠
    ②不定型 … a.多孔石塊 b.多瘤石塊 c.多棘石塊 d.その他
  • F 巨石


祭祀形態分類

  • G 放置石
    ①単独放置
    ②集積放置
  • H 碑状立石
    ①単独立石
    ②列石


自然石の形態分類として一つの画期と言え、今後、本考を元に他の自然石信仰も研究されていくべきだろう。


なお、巨石の自然石道祖神の例はほとんど確認されていないらしい。たしかに私もほとんど頭に思い浮かばない。

データをたどって1つだけ思い当たったのは、佐賀県佐賀市の下田山(通称「巨石パーク」)にある「道祖神石(さやのかみいし)」と呼ばれているものである。人々の道中安全の守護神とされ、3つの岩石がいわゆるドルメン状に集積しており、若干の室状空間を形成している。いわゆる自然の巨石と言える規模だ。

下田山の道祖神石

ただし、この道祖神石がいつから道祖神と呼ばれているのかは歴史的にたどれていない。本例においては昭和10年代までその名を遡ることはできたものの、当時、これらの巨石を一種の町おこしに利用した歴史があり、その時に道祖神石の名前が後付けられた可能性がまだぬぐえない。参考の参考として付記しておく。


自然石道祖神 調査項目表の提案


そして、本考末尾に掲げられた「自然石道祖神 調査項目表」の案にも触れなければならない。

一見してとても有用性の高いもので、調査項目の種類、そしてその細目の一つ一つから、倉石氏のこれまでの研究の蓄積を読みとれる。

倉石忠彦「道祖神伝承における自然石道祖神」(2023年)掲載


以下、本調査票に対しての私の所感を記す。


・呼称

岩石1個1個の名称と、岩石が寄り集まって群をなした状態での名称に違いがあるケースを熟知した項目分けになっている。


・自然石はどのようなところにまつられているか

この項目は、路傍・辻といった道の立地、または碑石型道祖神とのセット関係があって、初めてその自然石が道祖神として把握されることがわかる。


・自然石道祖神の祭祀形態

先述した形態分類の項目となる。

道祖神から離れても、単独存在であるか集積存在であるか、定型として括れるような形状かそうではない不定型か、不定型なら多孔・多瘤・多棘のいずれかといった分類は自然石信仰において示唆に富む。


・まつられている自然石の種類

産地の項目があり、それが必ずしも自然科学的な分析ではなく、①村内(どこにでもある) ②地域外(産地から運んでくる) ③川原から拾ってくる ④その他 となっており、その石を何と呼んでいるかといった聞き取りも含めて、現地の方からの視点に立脚した民俗学的なアプローチと言える。


・自然石を道祖神としてまつるようになったことについての言い伝えはあるか

2段階の聞き取り項目となっており、単に言い伝えの有無を記録するだけでなく、「同じような形の自然石を、道祖神として追加することがあるか」という2段階目がある。

信仰を定点的なものとせず、時間軸の中で変化する可能性を理解し、自ずと、未来に変化する可能性についても記録するという所に独自の着眼点がある。

さらに、その理由としても「神体として追加する」「奉賽物として追加する」「何ということなく道祖神のところに持ってくる」の3細目が用意されているのが奥深い。研究者が早急に理由付けず、「何ということなく」という反応を記すことは重要である。


・自然石はどのように扱われるか

この項目では、大きく「まつりの時」と「まつりの時以外」の2パターンを記録する。

まつり以外での岩石の用いられかたに目を配ることで、年間・季節・天候・昼夜といった環境変化で岩石の認識、位置づけが変化する可能性に着目している。それはひいては、岩石と神の関係性を解く鍵にもなりうるだろう。


道祖神をテーマにした調査票ではあるが、上記に所感を織り交ぜたとおり、私自身も自らの岩石信仰の調査にも取り入れたいと刺激を受けた部分が多々ある。

かつて私は「岩石祭祀事例の調査表」を作成したことがあるが、ここに今回の自然石道祖神を反映してアップデートし、複数の現場で試行錯誤してみたいと思う。


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