インタビュー掲載(2024.2.7)

2023年6月25日日曜日

岩船山の岩石信仰(栃木県栃木市)


栃木県栃木市岩舟町静 岩船山高勝寺

 

船形の山容をもち、岩肌が各所に露出しているところから岩船山(標高172.2m)の名がある。

山腹には岩船山高勝寺があり、関東の高野山、関東の善光寺、日本三大地蔵などの異名も有す。いわく、岩船山は故人の霊魂が宿る山と信じられ、高勝寺は故人の供養、子供の安産や子育てなどの霊験を包括する霊場として篤い信仰を集めた。現在、境内には水子供養のための「賽の河原」や、罪を犯した女性が堕ちるといわれる「血の池」などが残る。

岩船山(2005年撮影)


高勝寺境内の卒塔婆群

賽の河原


宝亀元年(770年)に弘誓坊明願が、岩船山北尾根にある船形の岩で地蔵尊と出会ったのが岩船山信仰の始まりといわれる。

この船形の岩は「岩船」「奥の院地蔵」と呼ばれ、一帯が高勝寺の奥の院として聖性視されてきた。


しかしながら、奥の院地蔵に辿り着くまでの尾根道は両側とも急峻な崖に挟まれており、地蔵橋という鉄橋が渡されていたが崖崩壊の危険性があるので、私が訪れた時(2005年)には立入禁止だった。

その後、2011年の東日本大震災によって、地蔵橋を含めた一帯が山体ごと崩落したと聞く。奥の院地蔵の岩船そのものは残存しているようだが、そこへ行きつく道の復旧予定はなく、奥の院は立入禁止エリアの手前に移設されている。

移設後の現・奥の院。奥に続く道は立入禁止。

岩船山は良質の岩舟石(安山岩質角礫凝灰岩)が採掘できるため、江戸時代以降、山中各所で採石が進み山体が大きく変容した。現在崖だらけなのはそのためである。

岩肌の露出する山を霊山として神聖視したところから始まっているはずなのに、その岩肌を採掘してしまうに至るその心の流れが興味深い。山を守った人々と、山を削ろうとした人々にあったはずの衝突の歴史が気になるところである。


最後に、岩船山研究の最新トピックも紹介しておきたい。

近年、岩船山をフィールドに調査研究を進める林京子氏らのグループが、ドローンを使って奥の院地蔵の岩船を撮影して、その結果、岩船上で「ブロッケン現象」が発生することを確認した(林氏、2023年)。

ブロッケン現象とは、山上などにおいて太陽の当たり具合によって人型の影や、光の輪のようなものが見える自然現象である。仏教における「光背」の概念との関係も深く、山がなぜ神仏と出会える他界・異界となりうるかを自然科学の観点から説明できる一説として注目される。

岩船山におけるブロッケン現象の撮影は、YouTube動画でも公開されている。



参考文献

  • 「日本三大地蔵 子育て子授け地蔵 岩船山」(高勝寺由緒書)
  • 林京子「寺社縁起と『近世王権神話』―栃木県栃木市岩船山高勝寺の事例から―」『宗教民俗研究』第33号 2023年

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