2024年1月21日日曜日

資料報告「愛知県北設楽郡設楽町(旧名倉村域)における自然石の文化財」

 


資料報告「愛知県北設楽郡設楽町(旧名倉村域)における自然石の文化財」を『地質と文化』第6巻第2号(2023年12月31日発行)で発表しました。

電子ジャーナルとして雑誌のpdfも下記で公開されていますので、どなたでもご覧いただけます。81~106頁です。

Geology_Culture_6-2.pdf 


2019~2023年にかけてフィールドワークとして調査を続けてきた地域です。

設楽町では岩石信仰や特別視された岩石についての事例が多く存在していることが確認され、そのあたりの文献情報は以前2019年に下の記事でまとめました。

愛知県設楽町名倉(大名倉・東納庫・西納庫)における岩石信仰の文献調査


私が早期調査の必要性を感じたきっかけが、設楽ダムの建設工事です。水没するエリアに沈む岩石も複数ある様子で、記録・保存をおこなおうとしたのが本報告です。


したがって、本報告の最大の目的は一つの文化財報告として位置づけておりますが、単なる個別事例の紹介にとどまらず、一般化できる歴史的意義としては次のようなことまで派生しています。


1点目として、いわゆる「磐座」の通説的見解の再考を促す予察を記しました。

原始的磐座(古墳時代の磐座)と歴史的磐座(修験道以降の磐座)の見直しや、イワクラと呼ばれた概念の歴史的位置づけについての示唆を盛り込んだものとなっています。


2点目として、岩石信仰の地質の関連について記しました。

歴史・地理のみに限らず、岩石の地質的な側面と岩石信仰のありかたに影響する可能性を、特に「遥拝」祭祀の点で言及しました。


3点目は最も大事な提言として、神聖視・特別視された自然石も文化財であるという「自然石文化財」の視点を提示しています。

私はこれまで岩石信仰の研究で人工的に加工・設置された岩石と自然のままでまつられた岩石の両方を一括して続けてきましたが、設楽町の調査を通して、とりわけ自然石の信仰・特別視の文化保存が重要であることを明確に意識できました。

本報告は、自然石文化の初の事例報告集として上梓して、今後の全国各地の記録保存の嚆矢になればという願いを込めたものであります。


奇しくも、自然石文化財に対する問題提起となる出来事が最近立て続けに起こりました。令和6年能登半島地震における見附島の崩落などの自然地形の変化や、大阪万博で岩石が利用されることになった残念石のニュースなどです。


残念石は厳密には人為的加工が施されている岩石ですが、多くの人々の認識は"路傍"の"不要"な自然石としての扱いだったと思います。

そのような、歴史がその姿形からは見えにくい「自然石」が、人々の思いを込めた文化財なのだという意識を新たにできる資料として、時節柄、本報告が寄与するところはあると確信しています。


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