2025年9月15日

太刀山愛宕神社裏山の愛宕大権現(静岡県浜松市)

静岡県浜松市中央区舘山寺町 舘山寺

秋葉山舘山寺に接して太刀山愛宕神社が鎮座する(太刀山は舘山と同音)。

神社の裏には山道が続き、5分も登れば山頂の尾根筋に出る。そこには無数の岩塊が露頭し、一画に玉垣に囲われた石祠が存在する。太刀山愛宕神社の奥宮と目される。

愛宕大権現(太刀山愛宕神社奥宮)

石祠に捧げられた穴あき石

藤本浩一『磐座紀行』(1982年)では「館山寺・磐大権現」と題した一項を置いている。

いわく、『東海道名所図会』の絵図には山の西側に「磐大権現(権現岩)」と書き入れてある場所があり、岩石群の合間に社が挟まれた様子が描画されている。当地の岩石群がそれで、館山(かんざん)は神山に通ずることからここは神山の磐座ではなかったかと所感を述べている。

しかしながら、残念なことに藤本は誤読しており、『東海道名所図会』の絵図に記された文字は正確には「愛宕大権現」である。
下に寛政当時の版本を掲載する。

国立国会図書館デジタルコレクション『東海道名所図会』65コマ。 インターネット公開(保護期間満了)資料のため転載自由。

愛宕が縦書きでやや字が詰まり気味で書いてあるので「磐」の一字に誤認したのかもしれないが、それでもあまりに異なる字であり、「磐」であってほしいという固定観念に冒されていたようだ。

以上のことから、この地は愛宕大権現に関わる岩石群だったということが、歴史学的にもっとも古く遡れる評価だろう。


現地には、岩石の傍らに名前を冠した看板が建てられているものも多い。気づいたものをまとめておこう。

ながめ岩

見かえり岩

神付岩(かみつき岩)。「頭をカミゝして厄を落して下さい」の説明も付される。

寄仲岩。後ろの建屋の床下あたりに「木魚岩」なる岩石もあったらしいが見逃した。

初登岩。山頂尾根の岩塊で最大規模。「初登岩」というネーミングは他で聞かない。

天辺岩。山頂尾根に沿って屹立する岩石群を天辺に準えたものか。

くぐり岩

船岩

これらの名称は文献上で確認できていないが、現代に名付けられたものか、地元で古くから口伝で語り継がれてきた名称なのか、経緯がよくわからなくなり独り歩きする前にはっきりしたいところではある。

火穴

先出の藤本浩一は、同図会の「火穴」という場所も「大穴」と誤読している。

火穴は現在「舘山寺穴大師」「弘法穴」と呼ばれてまつられている場所で、弘法大師がここで修業して自作の石仏を安置し、舘山寺の開基につながったと伝えられる霊窟である。

穴大師入口部分

この岩穴であるが自然の洞穴ではなく、文化財上では舘山寺古墳・弘法穴古墳と呼ばれており、古墳時代後期の横穴式石室であることがわかっている。
大師の霊窟として奥は禁足地となっているので詳細不明なところもあるが、天井石が1個欠けているだけで石室の保存状態は極めて良好である。玄室に対して羨道が長いことが特徴だという(浜松史跡調査顕彰会『浜松の史跡』1977年)。

なお、舘山の山中には十数基の古墳の存在が伝わるというが、本古墳の他に古墳認定されているものはない。


参考文献

  • 藤本浩一『磐座紀行』向陽書房 1982年
  • 秋里籬島 編『東海道名所図会』上冊,吉川弘文館,明43. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/765194 (参照 2025-09-01)
  • 浜松史跡調査顕彰会 編『浜松の史跡』続編,浜松史跡調査顕彰会,1977.12. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/9537735 (参照 2025-09-01)


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