2025年9月6日

野崎島王位石自然成因説について

テレビ東京9月5日放送番組「所でナンじゃこりゃ!?」の「王位石」のコーナーで取材協力しました。


王位石(おえいし)は、長崎県北松浦郡小値賀町の野崎島にある巨岩で、これが人工的に造られた構造物か自然の地形なのかという依頼でした。

王位石は巨石業界でも有名ですから存在を知っていましたが、私は現地に行ったことがありません。その時点で専門家として噴飯物だと思っていますが、自然説も人工説も適した人が見つからないということでお鉢が回ってきました。

人工説の方もいないんでしょうか。だれか地質畑の方かイワクラ巨石専門家の方、取材を受けてください…。


私は歴史系なので地質系の石は専門外ですと断りを入れたうえで、キュレーターという立場で回答させていただきました。その分、王位石を巡る諸説を調べて正確な情報を提供したつもりです。

実際の取材では約1時間30分話しました。放送では約1分に編集されています。

いろいろ語弊があると嫌なので、ここで補足説明させてください。


取材の打ち合わせ時、想定される質問を事前にいただいていたので、私がその時作成したメモ(回答集)をこちらに掲載いたします。

放送で実際に使われた部分を青字で表示しましたので、それでご理解を賜れば幸いです。


質問1「王位石は岩石信仰なのでしょうか?」

王位石は「生石」「湧出光明神」の異名をもち、石が生まれる、生長する石という信仰を有することから、岩石信仰の中でも「石神」(石そのものを神とする信仰)と呼ばれる種類に属する事例と思われます。

野崎島の沖ノ神島神社(沖津宮)と対岸・小値賀島の地ノ神島神社(辺津宮)を合わせて神島神社と呼ばれてきたので、野崎島のみならず近在の島々・島民にとっての聖地だったと思われます。


また、この在り方は沖ノ島の宗像大社における沖津宮・中津宮・辺津宮の考えと類似するものがあります。

沖ノ島では国家単位での祭祀の場として古墳時代以降の遺跡が見つかっていて、神島神社の神宝にも古墳時代の鉄剣がありましたので、野崎島の王位石も古墳時代以降に国家的な聖地としての位置づけもあったかもしれません(ただし王位石からは祭祀遺物は見つかっていません)。


質問2「王位石は自然にできたのか人工的なのか、どちらでしょうか?」

地質学の分野では、自然成因で説明可能といわれています。

であるとするならば、人工説が明確な証拠を出せない限り、私は自然成因説を支持します。


たとえば人工説には、岩の柱の上に笠石を置く方法としてこういう仮説があります。

岩の柱の後ろの隙間に盛り土をして、その盛り土の上で石を転がして岩の柱の上に乗せ、その後、盛り土を除去したという仮説です。

ならば、盛り土をして、その盛り土を撤去した作業の痕跡を証明する必要があります。それだけの大工事なら、土の乱れが地層として残っているかもしれません。

不用意に発掘調査はできませんが、地層を分析すればそれが自然の積み重なりなのか、人為的な攪乱がみられるのかなどの判断ができるかもしれません。しかし、現状としてそのような証拠はありません。

人工の手があるかないかですから、ある側に立つ人工説側が証拠を提示する必要があります。それがない限りは、自然成因説に立つのが科学的な姿勢だと思います。


また、大事なこととして技術力の証明がほしいです。

王位石をどの時代の構造物で想定するかによりますが、仮に縄文時代や弥生時代とするなら、金属器による工具がほとんどない時代ですから、そんな時代にそのような規模や技術力をもつ遺跡が他にもあるのかということです。こういう遺跡や遺物があるから、こういう規模の技術が可能だったと言える、というような。

できるかぎり考古学的に証明された遺跡で候補を挙げないと、王位石だけが突然変異のような扱いになり、それは非現実的で、その時代・文化の中で生まれたという説得力のある遺跡とは言えなくなるでしょう。

そういう意味では、人工説を唱える方に今挙げた課題を解明していただきたいと思っています。人工説を否定したいのではなく、説得されるのを待っているという立場です。


質問3「王位石の成り立ちを教えてください」

王位石は溶結凝灰岩とみなされています。

これは火山活動により生まれた岩石で、冷え固まった時に体積が小さくなって、その時に節理と言われる隙間が生まれます。

溶結凝灰岩の場合は柱状節理といって、柱のような形に風化・浸食していく節理があるそうです。


王位石の周りは森に覆われているので王位石だけがそこにあるように見えますが、島にはあちこちに岩盤が露出していて、野崎島の海中にも同じような柱状の岩石があるという話もあります(小値賀町郷土誌)。

このように王位石の岩の柱の群れは、元は一つの岩盤で、それが亀裂や風化を起こして、今は柱を複数立てたように見える自然の構造物と言えます。


では、岩の柱の上に横渡しになっている笠石はどうなのかというと、これも地質学的には自然成因で説明がなされています。

岩の柱のうちの1本が途中で折れて横倒しになったという説と、山の上から転がってきた岩石がここで止まったという説です。


質問4「石の上に石が乗るという偶然が起こるのでしょうか?」

王位石は山頂じゃなくて山腹にあるんですよね。ここがポイントだと思います。

日本列島の各地で、そのような別の石が乗っかった地形を挙げることができます。

  • 三重県の御在所岳にある地蔵岩
  • 岩手県遠野市の続石
  • 長崎県時津町の鯖くさらかし岩

いずれも山腹にあります。


これらは現状を見ると、下から上に積んだように見えますが、造山活動が起こる前は、もともとは岩石の頂面に地表面があったと考えると良いと思います。

その時代に上の斜面から別の岩石が転がって、下の岩盤にぶつかって止まった。その後、長い時間を経て周囲の脆い地形が削れていって、地中に埋まっていた岩盤が露出すると、結果として積み重なったように見えるということです。


質問5「王位石の前では方位磁石が狂うという話がありますがなぜでしょうか?」

高い木には雷が落ちるといいますが、同じように、高い所にそびえる岩や石にも雷が落ちやすいです。

雷が岩石に落ちると、その場所に本来あった地磁気に影響をおよぼして、岩石自体の磁性も変化するというケースが確認されています。


だから、山の中の岩石に近づくと方位磁石が狂う、不思議なパワースポットだという話を聞きますが、自然というものは常に安定しているものではなく、こういった雷などの日々の現象で環境変化するものとも言えます。

ですので、方位磁針が狂うのもある種当然で自然な現象だと私は受け止めています。

王位石はとりわけ立柱状にそびえる巨大構造物ですので、落雷が落ちやすいと思われます。雷が落ちた直後などに行くと、特に方位磁針は狂うのではないでしょうか。


私個人が注目しているのは、その現象自体が不思議ということではなく、そのような自然現象によって人間が不思議がったり、もしかしたらそのような磁気異常に無意識に影響を受けて、特殊な感情や精神状態が生まれるというヒトのメカニズムです。

そういった、ヒトの心理に影響を及ぼす条件がそろった自然環境というものが、人が聖地として崇めるようになった一因になったのかもしれません。


※番組放送では王位石の磁場が狂うという謎も取り上げられていましたが、私の回答はカットされていたので、磁場の謎は宙に浮いたまま番組終了しました。1分・1秒を大事にする番組編集のタイトさを感じましたが、このように色々話していましたのでフォローに代えさせてください。


出典

王位石についてはすでにいくつかの知見があります。今回の私の回答は下記ソースを紹介したものです。

  • 近藤忠・山口要八「野崎島巨石遺跡の紹介(長崎県北松浦郡小値賀町野崎郷のドルメン)」『考古学雑誌』第37巻第4号 1951年
  • 小値賀町郷土誌編纂委員会 編『小値賀町郷土誌』,小値賀町教育委員会,1978.3. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/9773094 (参照 2025-09-06)
  • 本馬貞夫「神嶋神社と野崎島」(2020年2月4日中日新聞朝刊)
  • フジテレビ2023年8月2日放送番組「林修のニッポンドリル」における出水亨氏のコメント(Xに参考動画あり


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