2020年7月26日日曜日

垂坂山観音寺のおもかる石(三重県四日市市)


三重県四日市市垂坂町

地蔵堂から出た「おもかる石」


2019年7月頃、垂坂山観音寺の境内で、座布団に乗った三つの丸石が露天に出ているという話を聞き、さっそく足を運んだことがあった。



座布団に乗らず、地面に直接置かれた岩石も。

背後から撮影

どうやら、境内にあった地蔵堂が老朽化していたので、堂を建て替える間、堂内にあった諸々の石造物や岩石を一時的に野外に出したということらしい。
観音寺はそれまでも数度訪れていたが、お堂の内部にある丸石には気づかなかった。このような形で気づいていない岩石が多くあるのだろうと考えると、このたびの建て替えに出会えたことはありがたい奇遇だった。

地蔵堂に戻った「おもかる石」


その後、同年末に再訪したところ、新築の地蔵堂内にこの三つの石が安置されていた。

新築された地蔵堂

堂内に戻された岩石たち

おもかる石

住職さんにお話をうかがった。


  • 「おもかるさん」「おもかる石」と呼ばれている。
  • 悩み事や願い事がある時、この石を持ち上げてみて、予想していたよりも軽く感じれば祈願は成就するという。
  • 旧地蔵堂の頃から置かれていたが、いつ頃からある石なのかはわからない。地蔵堂の建て直しに伴い、旧堂内から一時的に露天に出していた。
  • 定期的に石に祈願される篤信者の方もおり、「上がらないときは絶対に上がらない」のだという。
  • 地蔵堂内にあるので、お地蔵さんに祈りを捧げ、それとセットで石を持ち上げる場合もある。
  • 三つの石が並ぶが、真ん中の石がメインと決まっているわけではない。


「おもかる石」すなわち「重軽石」の信仰は全国各地に見られ、三重県においても『三重の力石』という本があるくらい(後述)、仏教に限らず民間信仰の一角を占めている。


観音寺のおもかる石は2個ある。
3個置く例も他県にあるものの、自然石を大きさ違いで3個用意するのは珍しい。

私も持ち上げてみた。予想より重かった――。

しかし、この石は3個あり、大きさが微妙に異なる。3つともチャレンジできるのでは。

そこで2個目も持ち上げてみた。2個目も重く感じてしまったが、最後の3個目でやっと軽く感じることができた。
何だか救われた気がして、ここに当地の「おもかる石」の一つの特徴を見た気がする。

3回も持ち上げるのは邪道だろうか?
信仰者個々人にマイルールがあることだろう。教本もない。どの石を選ぶかも自由。
真ん中を選ぶという配置性か、裏をかいて脇を選ぶ思考性が出るか、全部欲張りに行くのか。
石の形に惹かれて選ぶということなら、それも岩石信仰の心理と言える。

観音堂の奇石


住職さんから、お寺にはまだいくつか石があると教えていただき、観音堂の中から見せていただいた石がある。


こちらも丸石だが、石に穴が開いていて、石の内部に空洞ができている。
おそらく穴を開けたのは人為的だが、内部の空洞はえぐられたのか、元から組成として空洞だったのか不明である。
内部に空洞があると知って穴を開けようとしたのかなどもすべてが不明の、特異な奇石である。
これはおもかる石の信仰とはまた別系統でとらえたほうが良いだろう。

地蔵堂にも、おもかる石以外に出自不詳の不整形の自然石が数個あり、地蔵菩薩の脇に置かれたり、お供えのように置かれたりと、まるで甲信地方で盛んな丸石神を想起させる。

地蔵堂の地蔵菩薩脇に置かれた丸石

地蔵菩薩前に置かれた白石

おもかる石と力石について


これと似ていて混同されやすいものに「力石」がある。

力石についてはすでにまとまった研究があり、その第一人者が四日市にいたことを改めて紹介しよう。

元四日市大学教授の高島慎助氏は『三重の力石』(岩田書院、2006年)を刊行し、四日市市内に三十例強の力石がある(あった)ことを明らかにしている。

同書から引用するが、力石とは「労働を人力に頼らざるを得なかった時代に労働者の間に発生し、力くらべや体力を養うのを目的にした石」を指す。昭和初期~戦前の頃にこの風習は潰えたらしい。
見た目は楕円形~丸石が多く、公民館や寺社の境内に転がっている。ただの自然石然としているが、力比べをするような石なので、75kg~110kgの重量に上るものが多い。

この力石と混同されやすいものに「おもかる石」がある。
こちらも見た目が丸石で寺社に安置されるという点で似ているが、違いを挙げるなら、おもかる石は力比べにならないほどの重さとなる。
力石とおもかる石が混ざったような「巨石のおもかる石」もあるが、本来は力石とは似て非なるものなのではないか。

参考リンク


「四日市の『おもかる石』信仰~垂坂山観音寺の事例から~」(本記事の抄録)

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