2021年11月15日月曜日

二見興玉神社の岩石信仰(三重県伊勢市)


三重県伊勢市二見町


当社の由来については、Web上にすでに好資料が紹介されている。

二見興玉神社が昭和14年に発行した「二見興玉神社参拝のしをり」というものがあり、これの原文を公開したベギラさんの「二見興玉神社参拝のしをり」(サイト「古代の謎へ『銅鐸』」内)が非常に有用である。

現在の由緒書が伝えない部分を補完する資料であり、これを適宜参照した。


二見興玉神社は、元は二つの宮が明治時代に合祀されて誕生した。

一つは、行基が二見浦の裏山に太江寺(たいこうじ)を開山した時、その鎮守社として猿田彦大神をまつった興玉社。もう一つは「天の岩屋」の中に宇迦御魂大神(豊受大神)をまつった三宮(さんく)社である。これに境内社の竜宮社の祭神・綿津見大神を加えた三柱が二見興玉神社の主祭神となる。

二見興玉神社境内


興玉神石(おきたましんせき)


二見浦の名勝として知られる夫婦岩の二つの岩の間を通して、沖合い約700mの海中に沈んでいるのが興玉神石(興玉石・御膳岩とも)であり、興玉社の信仰系譜の源流に位置付けられる。

興玉神石はかつては海上に常時露出していたが、度重なる津波により海中に没し、現在その姿は極稀に岩礁の頂部が見えるほどになったという。

夫婦岩の二つの岩の間に興玉神石を遥拝する。

興玉神石は、「しをり」の言葉を借りると「猿田彦大神縁りの霊石」とある。

さらに具体的に説明した文章がないかと探してみると、伊勢湾内を航海する舟人達が崇敬するものであり、二見浦の守護神座との表現を見つけることができた。また、現地看板には「神様が寄り付く岩」との記載もあった。

「神座」「神が寄り付く」というあたりを考慮すると、興玉神石はいわゆる磐座としての位置づけで神社から信仰されていることがわかる。


一方で「興玉」の「玉」が、猿田彦大神の御魂を具現化したものであると見るならば、これは装置などと表現できるものではなく神そのものの姿だと受け止めた人もいたことだろう。

海上の岩を遥拝したのか、岩に帯びる何か見えないものを遥拝したのか、ということである。

※「玉」は御魂を宿らせる入れ物であり、装置・道具的な玉としての信仰も並立しうる。


まとめれば、磐座と石神の性格が混在しておりきっぱりと分けられない事例であると考えられる。思うに、信仰する人によって興玉神石の位置付けというものは変化するのではないか。

海上に露出していた時は楕円形の平岩だったらしく、神座としての外観にもふさわしかったと言える。それが結果的に海中に秘匿されたことで、石神色が濃くなる一要素になったかもしれない。


夫婦岩(めおといわ)


男岩(高さ9m)と女岩(高さ4m)の総称で、長さ35mの注連縄がかけ渡されている。日本の夫婦岩の代表格として殊に有名だ。

男岩は立石、女岩は根尻岩の別称を持ち、古来は総称して「立石」「天の岩門」と呼んでいたらしい。

後世に両岩をイザナギ・イザナミ命になぞらえて、夫婦岩と呼ぶことが一般化したようだ。


夫婦岩に人々が込めた思いはさまざまあるようで、まずは先述の興玉神石を拝するための鳥居という見方がある。

それと同時に、両岩の間から登る日の出を崇める場所としての支持も高い。

他に、海の彼方を神々の住む常世国とみなし、人間の住む俗世と常世国の結界石としての役割を果たしているという機能的な評価もしうる。

なお、両岩の間から富士山を眺めることもできる。ただし、空気が澄んでいれば何とか、というレベルなので、富士山遥拝の場としての性格はあまり大勢ではないが、いずれにしても夫婦岩を通して"別の対象"に思いを馳せる役割を担った岩石であることは否めないだろう。


夫婦岩の周りには、3体の岩が頭を出している。それぞれに名前がついており、

  • 獅子岩
  • 屏風岩
  • 烏帽子岩(後世になり、蛙岩の通称も生まれた)

その名称から、岩石を物の形にたとえた姿石の事例と評価できる。

左から獅子岩・烏帽子岩・屏風岩・男岩・女岩

左が屏風岩、右が獅子岩

写真右奥が烏帽子岩


天の岩屋(あまのいわや)


二見興玉神社境内には「天の岩屋」と呼ばれる岩窟が存在し、現在は岩窟の入口を塞ぐように社祠が建てられておりその内部ははっきりしない。「しをり」にも岩窟の内部構造や規模に関する記述は見当たらない。



先述のとおり、三宮神社をかつて岩窟内にまつっていた場所といい、「しをり」によれば別称として「石神(しゃくじ)」「佐軍神(さぐじ)」「天の岩戸」があったという。

三宮(さんく)神社は三狐(さんぐ)神社とも読まれ、「サ」と「ク」の音の組み合わせであることから、そこから転じてシャクジ文化の影響が加わったと読み取れる。

岩石信仰との絡みで考えれば、岩石に内部空間を有するシャクジ事例というのは珍しいのではないか。


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インタビュー掲載(2024.2.7)