2022年6月12日日曜日

日本の岩石信仰と海外の岩石信仰の違いとは?

6月6日(月)放送のテレビ番組「ニッポン視察団」に、岩石信仰の関連でコメント出演しました。

最新!外国人が選ぶ「鎌倉・江の島の名所名物ベスト20」3時間SP
https://www.tv-asahi.co.jp/shisatsudan/backnumber/2022/0111/


19位の葛原岡神社にある「縁結び石」の特集に関して、岩石信仰の簡易な解説をいたしました。

岩石信仰のイメージ画像も4か所流れました。

  1. 二見興玉神社の夫婦岩(三重県伊勢市)
  2. 玉比咩神社の玉石(岡山県玉野市)
  3. 岩崎山の五枚岩(愛知県小牧市)
  4. 雁峯山の石座石(愛知県新城市)


これらの写真も私の提供です。

実際は13枚送って、ディレクターさんにチョイスしていただきました。

13枚の岩石は大小さまざま特徴もさまざまでしたが、どれをザ・岩石信仰と感じたかという思考過程自体を興味深く感じました。


さて、葛原岡神社には「魔去る石」という岩石祭祀もあります。

http://www.kuzuharaoka.jp/institution.html(葛原岡神社公式ホームページ)


神社公式によると、縁結び石については平成22年に神を迎えて祭祀したとのことで、現代の岩石信仰の一例と見て良いと思います。


ただ、番組の趣旨としては、そういった歴史的な起源に関するものではありませんでした。

外国人観光客がこれらの岩石を見て、自然の石をまつるとはユニークだと感じていることに対して、外国と日本との対比で専門家としてコメントできないかということでした。


依頼を受けた当初お答えしたのは、私は日本国内の岩石信仰を主としているため、海外のことを悉皆的に把握していないという頼りない返答でした。


断定できないことが多いので、「かもしれない」「わからない」といった、ぼやけた回答になる。

あと、話が長くなる。
(これは、私の性分ですね)

つくづく、メディアで使いにくいコメントしかできない私を使ってくださり恐縮でした。


放送されたコメントは数秒間ですが、実際は40分ほど話しました。

一つ目は、日本の岩石信仰についてのコメント。

「少なくとも、国内最古級の文献の『古事記』『日本書紀』には、岩や石を聖なるものとして崇めていたことが記されています。」

そのあと、古墳時代より前についてどこまで遡れるかには諸説あるといったくだりを長々と話しました。要領を得ないのでこれはカットで当然。


二つ目は、海外の反応についてのコメント。

「自然の石をそのまま崇めるという日本での光景に、外国人の方も珍しさやユニークさを感じたのではないでしょうか。」

この直前にカットされたセリフには、

「海外では、石を人工的に加工して、神殿や祭壇にするといった使い方が多いようですが」

という一言がありました。


番組でインタビューされた海外の方が、

「キリスト教に神様はひとりなので、日本のように自然の石に願いを込める文化は珍しい」

とのコメントをされていて、それを受けての私の返答でした。


スタジオの芸能人の方からも同様の旨の解説がありました。

私のコメントのポイントは「海外では、石を人工的に加工して、神殿や祭壇にするといった使い方が多いようですが」の「ようですが」の部分です。

断言はしませんでした。

海外にも石に願いを込める事例はあり、人工的な石だけでなく、自然の石に対しても神秘感や聖なるものとして扱った可能性が(私が寡聞にして知らないだけで)ゼロではないだろうと考えたのが理由です。


海外の方ご自身も自覚されていないかもしれませんが、たとえばヨーロッパでは宝石信仰があります。

宝石は単なる装飾品ではなく、かつて「天体の光が凝縮したもの」と信じる人々もいました。

宝石が天の上の世界(天体)とつながっていて、天上界の力を借りられるという信仰は、ギリシャ・ローマ時代よりも以前、古代バビロニアまで遡ることができるといいます。

十字軍の際、兵士がガーネットを携えたり、ナポレオンが、出征の時ダイヤモンドを携えていたのは、石に願いを込める信仰と言えます。

創造主としての神に願いをこめるのとは別で、天使の象徴としての石に願いを込め、その加護を信じるのは成り立つということです。

参考:「うごめく石 気まぐれな魔女~徳井いつこ『ミステリーストーン』を読む その8~」


また、数々の錬金術師の残した考えでは、石には霊が宿っており、石を割り砕いて、中に入っている霊を取り出すことで、金以外の物質を金に転化することができると信じられていました。

石にこもる霊は創造主的な神そのものではなく、その神がこの地上世界の各所に姿形を変えて散りばめた"神の意思の一片"としての霊となり、これもまたキリスト教世界観のなかで成立する考えかたです。


哲学者のユングは、こういった石に霊性を認める解釈をしています。

人間を含めた動物は、創造主が創った「神の小片」ではあるが、神の意思からは独立し、自分たちの意思で動き回り、選択ができる存在だったと。

石には、意味のある石と意味のない石が混在していて、その造形や外見も時には機械的に見えるものもあればそうとも言えないものもあり、一言で言えば「混乱(カオス)」であると。

石には底知れないものを感じるということで、あくまでもユング自身の解釈ですが、石は「霊の具現」を含んでいるとみたのです。

参考:「石に語らせる~徳井いつこ『ミステリーストーン』を読む その4~」



海外は石を人工的に利用して、日本は自然の石を信仰するというテーゼも絶対と言えるでしょうか。

どうも、そんなに明快に二分できる世界観ではなさそうです。


たしかに、海外において自然の奇岩はあれど、それを神様にしているかというとよくわかりません。

アボリジニが崇めるウルルも自然の巨大な一枚岩ですが、間違いなく岩の聖地ですが、これが神そのものかと短絡することは控えたいです。


ヨーロッパではどうでしょうか。

ポルトガルのモンサントは、巨石群に町が取り込まれているかのように存在する場所として有名です。現状ではそれは奇岩の景勝としてありますが、かつてはキリスト教以前の巨石信仰だったという俗説もあるようです。

説なので断定ではないですが、自然の石を信仰していた可能性があるなら、「海外には自然の岩石を崇める文化はない」と言えないことになります。


そもそも、番組では欧米圏内のキリスト教世界観でのインタビューに限られている様子でした。

たとえばイスラム教に目を転じれば、聖地メッカのカアバ神殿に安置された「黒石」があります。

この黒石をどのように理解するかも難しい問題で即断できませんが、絶対主とは別で、岩石を素材にした信仰は並立しうるものであることが伝わります。


さらに、アジアを視野に入れると様相は一変するでしょう。

たとえばモンゴル〜中央アジアに分布していたオイラト人の岩石信仰については、下記の論文が詳しいです。

参考:「オイラトの英雄民話、英雄叙事詩における岩石崇拝の観念(1)」


そもそも、日本の岩石信仰が日本独自かというとそうとは言えず、朝鮮半島でも日本列島の古墳時代と同時代の岩陰や岩石の祭祀遺跡が複数報告されています。

このように、アジアには自然の石に神宿るとする岩石信仰が確実に存在するので、この点を踏まえれば、「海外に自然の石をまつる信仰はない」とは言えなくなるでしょう。


ただし、小泉八雲(ラプカディオ・ハーン)は、明治時代に来日してかつて次の発言を残しました。

参考:「小泉八雲「日本の庭―抄―」~『日本の名随筆 石』を読む その7~」

「とくに日本の国は、石の形に暗示的なものが多い国だ。(略)天然物の形からくる暗示が、こんなふうに認識されている国では、おそらくそういうこともあろうと想像されるとおり、日本の国には、石に関する奇妙な信仰や迷信がじつにたくさんある。」


つまり、海外の人、特に、欧米のキリスト教世界観に根差すと、自然の岩石を神のように同一視するということは考えられなくなるようです。

先述したように、実際には海外に自然の岩石への神聖視が認められる事例があったとしても、それはあまり意識下に置かれることはなく、いざ日本で自然石信仰に出会い、珍しいものとして驚く気持ち自体は理解できるところです。

したがって、

「海外では、石を加工して神殿や祭壇を作るような場面も多いので、日本で石をそのまま崇めるのを見て、海外の方もユニークに思うのかもしれませんね。」

というニュアンスで、共感するコメントをさせていただきました。


ちなみに、葛原岡神社の「縁結び石」「魔去る石」は現在の整備状況を考慮すると、自然露出そのままの岩石というより、動かして今の位置に据えた岩石信仰と言えるでしょう。

また、岩石=神というよりも、岩石を用いて縁結びや厄除けを祈願する「祭祀施設」としての岩石ではないでしょうか。

そういう意味では、いよいよヨーロッパの宝石に対して期待する心や、巨石を使って神殿や祭祀施設を構築する機能と、そこまで変わるところはないとさえ思ってしまいます。


特定の場所における特定のインタビューという条件下で集計すれば、当然偏りもあろうと思います。

日本の中でさえ、そもそも岩石を信仰するという世界自体がそんなに知られていないのですから…。

(家族以外では、出演後に周りの人々から岩石信仰のことで声を掛けられることはありませんでした…まだまだ精進です)


1 件のコメント:

  1. 「白石宇井とは何者か」という記事も、どうぞご参考に。

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インタビュー掲載(2024.2.7)