昨今、赤色立体地図を利用して古墳や城郭を発見する取り組みが活発です。
従来の等高線とは違い、航空レーザ測量による1m単位あるいはそれ未満での微細な地形の流れを確認できます。
古墳や城郭は大幅な地形改変を伴うため、自然地形に対して不自然な溝・段・平坦面などが残ります。面白いのは、人間の視野では現地で気づきにくい俯瞰的な地形改変が赤色立体地図だと浮かび上がるという点です。
それでは岩石の場合はどうなるでしょうか。
1m単位の地形の流れであれば、それより高さのある岩石の起伏が立体化されうるのではないかという狙いです。
これにより岩石信仰調査や自然石文化調査に援用できるのではないかという見通しを立てて、今回、いくつかの事例を皆さんと見ていきたいと思います。
赤色立体地図のデータについて
ウェブサイト「全国Q地図」では法令上公開・活用が可能なさまざまな地図情報がまとめられており、赤色立体地図も全国版・地域版・都道府県別で使用可能なものが網羅されています。
下のページが特にわかりやすいです。
全国の赤色立体地図、CS立体図が閲覧できます! | 全国Q地図
今回は、この内の「基盤地図情報(標高)1mメッシュ(DEM1A)【Q地図】」の赤色立体地図を使ってみます。
私が過去に訪れた岩石祭祀事例の中で、地形的特徴をもつと思われるものをピックアップして確認してみました。
確認してみてわかったこととして、すべての場所に赤色立体地図があるわけではないのが注意点です。
たとえば、賀茂神社の神籠石(群馬県桐生市)、金鑚神社の鏡岩(埼玉県児玉郡神川町)、白山神社の巨大岩塊(福井県勝山市)、金丸八幡神社の列石(徳島県三好郡東みよし町)などはその場所一帯が赤色化されていなかったため確認不能でした(公開されている範囲で)。
悉皆調査することはまだできない前提で、その他の場所をいくつか見てみましょう。
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| グレー表示の部分が赤色立体可能エリア(DEM1Aの場合) |
なお、地図の引用・転載はこちらにあるとおり、全国Q地図・地理院タイルのクレジットが地図上に写っていれば、それをそのまま出典表示に変えることができます。
Case 1. 建鉾山
一目見て、等高線地図では緩やかな楕円形に見える山容も、実際には緩急のついた起伏のある山中地形であることがわかります。
そして一大巨岩。山頂から北の谷間に向かって筋状に隆起しているのがそれです。特に白光りと鮮明な赤色表示をなしているので、周辺地形と巨岩とを判別できます。
建鉾山の例では、赤色立体地図で岩石地形を確認できるという結果になりました。
Case 2. 榛名神社
榛名神社の御姿岩(群馬県高崎市)ならどうでしょうか。
高さ50m弱といわれる立岩です。想定としては、明らかな地形起伏として描かれるのではないでしょうか。
作図ツールを使って黄緑色の円で囲んだところが、御姿岩のある場所です。
社地を設ける際に整地した地形は明確に浮き出ていますが、御姿岩は…思ったより…目立っていません。御姿岩は立岩状なので上から見ると「点」表示になると考えられますが、50mという高低差が図化されていない気がします。
建鉾山は山と同体化した岩盤地形だから描かれて、御姿岩は地表から浮いた構造物的な扱いとして図化されないのか、レーザ識別の「癖」を知る必要があります。
榛名神社の例では、赤色立体地図で岩石地形を確認するのは難しいという結果になりました。
Case 3. 星ヶ見岩
岐阜県中津川市の巨石の宝庫として知られる星ヶ見公園はどのように見えるでしょうか。
こちらは探訪記事をまだ公開していないことに気づいたので、下に参考写真を掲載します。こんな山です。
Case 4. 渭伊神社境内遺跡
大多数の方が「天白磐座遺跡」と通称しつづける、渭伊神社境内遺跡(静岡県浜松市)です。
(棘のある言い方ですみませんが、学術的にここは譲れません)
今回は事前にここに岩石群の遺跡があることがわかっていて、事後的に赤色立体地図を見にいっているから「まあ、あるよね」くらいの感想ですみます。しかし、本来の趣旨である未発見の岩石群を地図上で探そうという用途で考えるなら、これではやや厳しいでしょう。実際に現地に行ってみないとそれが岩石かどうかはわからないと思います。
人間の視覚に訴えるA岩、B岩、C岩のトライアングル景観が、赤色立体地図上ではなかったことにされるのもいろんな意味で興味深いです。
岩Aは高さ7m強あり図化されていると思いますが、高さ7mない道幅の整地跡のほうが鮮明に写るというのが赤色立体地図の特徴のようです。
Case 5. 東光寺山出世不動明王
近江富士に北接する東光寺山の出世不動明王(滋賀県野洲市)は、谷間にこんもりと隆起する岩塊でありこれがどのように図化されているか気になります。
右下の小さい丸のほうが、出世不動明王の岩塊です。
これはくっきり存在しています。当初の予想に応える結果であり、このように地形の隆起として認識されれば強いです。
岩石と関係ないですが、それ以上に予想外だったのは左上に囲んだ部分です。
ここは妙光寺山の頂上です。妙光寺山城という中世の山城が確認されていますが、前方後円形に見えなくもない。主軸の長さは100mに達しようかという大規模なもので、前方部と後円部のバランスを考え合わせると古墳時代後期の前方後円墳の特徴にも見えます。
妙光寺山の山麓・山腹には群集墳が存在しますが、山頂の前方後円墳は文化財総覧GISを見る限り報告されていません。山城のほか、山名のとおり山寺の整地地形の可能性もありますが、念のため今の流行に乗っかり、前方後円墳候補としてここで報告しておきます。
Case6 . 梅ヶ畑銅鐸埋納地
梅ヶ畑遺跡(京都市)と言えば、京都市唯一の銅鐸出土地で岩石信仰との関係も取り沙汰される重要遺跡です。
Case 7. 日室ヶ嶽
日室ヶ嶽(京都府福知山市)の東斜面は今も禁足地で、内部の様子は不明です。
このように、立ち入ることができない禁足地内の岩石群の存在を赤色立体地図で把握することは、本来の趣旨に適う使い方でしょう。
山頂から東にかけての斜面に、相当数のポツポツとした隆起が存在していることが窺えます。これまで見てきた事例を踏まえれば、これらがすべて岩石である可能性は高いです。
日室ヶ嶽の東斜面がなぜ禁足地であるか、そして、日室ヶ嶽の「磐座」とは山頂ではなく東斜面を指すのではないかなどの示唆を与えてくれます。
緑色の丸は、天岩戸神社の御座石があるはずの場所ですが、川の中の岩石は地形ではなく構造物としてはじかれてしまう模様です。
Case 8. 御社尾とハッチョウサン
御社尾(奈良県奈良市)は、都祁山口神社の裏の谷頭に位置し、二つの尾根が合流する特異な立地で知られます。
御社尾の岩塊(上の緑丸)は、なんとなく周辺より尖っているかなくらいの印象で岩石地形としては鮮明ではありません。小川光三氏が述べるような前方後円形も地形上では認められません。下の緑丸はハッチョウサン(八王山)と呼ばれる場所で禁足地とみなされています。ここに列石らしきものがあると同・小川氏が書き残していますが地図上ではその列石具合が確認できず残念。こういう時に活躍できるとよかったのですが。
Case 9. ゴトビキ岩
ここで巨石の代表格・ゴトビキ岩(和歌山県新宮市)に登場願いましょう。
天磐盾に比定される神倉山の岩肌は、山塊の周縁にわたって明瞭に図化されていますが、それに比するとゴトビキ岩は緑丸の中で目立ちません。
高さ10mを超すと言われる巨岩ですが、存在していないような結果です。構造物扱いで除外されてしまったパターンでしょうか。このように岩石の「当たり」判定は微妙な位置づけにあるようです。
Case 10. 粟島神社の巨石
粟島神社の巨石(愛媛県大洲市)は、段丘上の高さ約4mの岩塊で人工説も出たことのある「ドルメン巨石遺跡」。
社地として整えられた平坦面に存在する巨石なので、そのギャップがどのように地図に表れるかの結果がこちらです。
緑丸の中にポツッと岩石の盛り上がりが見えます。見えますが、これは渭伊神社境内遺跡と同様に事前に知っているから事後的に識別できるだけで、事前情報なしでどれが岩石だと問われれば至難です。
高さ4mの「巨石」と形容される岩石で赤色立体地図上ではこの存在感ですから、岩石の識別に用いるには難しいという結論にならざるをえません。
Case 11. 猪群山
最後に猪群山の「環状列石」(大分県豊後高田市)を上空から眺めてみましょう。
ポツポツと岩の群れは視認できますが、それよりも視覚的に引っ張るのは山頂を取り囲む人為的な溝。
これは明治時代に山火事に備えて作られた防火施設です。やはりこういう人為的な地形改変に赤色立体地図は強く、また、視覚的にもこの防火壁が「環状列石」を誤認させる要因であることは岩石群の分布と照らし合わせれば瞭然です。
結論
いくつかの例を一緒に見てきました。
結論ですが、現状、岩石を見つけるのには適したツールとは言えません。
赤色立体地図では時に自然地形の岩盤として、時に構造物としての岩石として自動識別していることにより、一貫した調査に用いることができなさそうです。
しかし、その岩石が存在する場所の地面が、整地されているか自然地形のままかを判断する際の参考にはなります。
岩石信仰というのは自然風景と人の歴史の狭間の存在であり、単なる自然石として扱われることもあれば、真偽不明の人工物として持ち上げられることもありました。これまでは主に研究者の主観の問題領域でしたが、地図情報においても狭間・周縁の存在になりやすいのだと感じた次第です。













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